いつだって主人公推しになれないから苦しい

ワンピースにしっかりと向き合って、メモを取りながら読むようになって、79巻まで読み終えました。
ドレスローザ編が終わりました。
ここまで読んで、私の「ワンピース(ひとつなぎの大秘宝)」への予想に矛盾が生じたので、前回の記事は一度非公開にしました。そのうちブラッシュアップしてまたあげると思います。

今日はワンピースの真相を追う内容とは少しズレた内容です。ワンピースにおける正義と悪の話。というか主にドフラミンゴの話。



あの、私、漫画とかアニメで「主人公推しになったことがない」んですね。そういうオタク結構いると思います。
何故なら良い漫画ほど悪役(ライバル役)が魅力的だから!!!!!!!!
テニスの王子様しかり、黒子のバスケしかり、ハイキューしかり、ハンターハンターしかり、BLEACHしかり、REBORNしかり、鋼の錬金術師しかり、ワンピースしかり、敵、魅力的だし人気ですよね。適当に有名な(私が摘んできた)漫画挙げただけですが、そりゃ主人公が何も苦労せずにいたら物語はつまらない訳で、主人公が苦労するためには困難な壁が必要な訳です。となると、必然的に困難な壁は強く在る訳です。
そらカッコイイよねと。好きになるよねと。

でも、今言った通り彼らは"壁"な訳です。
ミスチルが『高ければ高い壁の方が登った時気持ちいいもんな』と歌ったように(『終わりなき旅』より)、強い敵ほど倒した時に主人公が強く見えるので、いつかは彼らは倒されたり、負けたりしてしまうんです。
物語の始めで倒されたり、真ん中で倒されたり、終盤で倒されたり、様々ですけどとにかくいつか彼らは敗者となります。(後に仲間になったりするけど)(でも1回は負けるじゃん)

漫画的には、主人公が勝つことが正しいんです。
じゃないと物語が進まないから。
でも、彼らを応援している身としては、そこがすっっっっっっっっっごい苦しいんですよね。
その漫画が嫌いになる訳じゃなくて、そこのシーンだけ見たくなくなっちゃう。
いい漫画ほど、彼らが主人公に立ち向かう理由をきちんと描くので、そっちの方に共感してしまうんですよね。





で、(いきなり)ワンピースの話をするんですけど(これはたとえ話だと思ってください)
ワンピースって、正義(主人公)と悪(敵)の描き方が凄い絶妙で。
例えば、初期ルフィが倒した敵(アーロン、クロコダイル、エネル等)って同情の余地が無い完全悪だったと思うんですよ。クロコダイルはインペルダウンの時協力してくれた(し、過去色々ありそうではある)けど、初めて対峙した当時はそんなこと知らないですよね。ただアラバスタを勝手に襲った悪役だし、エネルだってスカイピアを悪政で支配する悪役だし、アーロンもナミに酷いことしてたやつ(後の魚人島を読むと見方も変わるけど、やっぱりその当時はそんなこと知らないのでめちゃくちゃ悪役)だし。
なんなら海軍ですら、オハラを崩壊させたことやロビンを脅すロブ・ルッチ(CP9)の行動で、読者には「コイツら正義とか言ってるけどなんなん!?ロビン可哀想すぎん!?」と敵役であることを刷り込まれます。



ところが、それを段々とひっくり返されるのが51巻のシャボンディ諸島の辺りで、これは前回の記事にも書きましたが、「あぁ、ルフィ以外にも冒険してる海賊がいるんだ」と気付かされる。
そして、懸賞金に対して。シャッキーは、ルフィより懸賞金が高いキッドに対して、「民間人に多大な被害を与えてるからカワイくない」と言う。

場面は飛んで56巻、インペルダウン編終盤。ジンベエ親分やクロコダイル、バギー、Mr.3、ボンちゃんらと手を組んで脱出を目論むルフィに立ち向かうハンニャバルの台詞。ここには痺れた人も多いんじゃないでしょうか。名台詞ですよね。



『何を… 貴様らシャバで悪名上げただけの……… "海賊" に "謀反人" ………!!! 何が兄貴を助けるだ!! 社会のゴミが奇麗事ぬかすな!!!貴様らが海へ出て存在するだけで…!!! 庶民は愛する者を失う恐怖で夜も眠れない!!!』



ここでハッとさせられるわけです。
読者はルフィの視点で物語を追ってるから、ルフィの邪魔をするやつは敵、だったのに、ハンニャバルの言葉って、めちゃくちゃ正義の味方なんです。
海賊って、確かに悪じゃんと気付きます。

これを言われると、この後の頂上戦争がまた単純な正義と悪のぶつかり合いじゃなくなるんですよね。
そしてすかさず高みの見物を決めていたドフラミンゴの台詞ですよ。こちらも名台詞。


『海賊が悪!!? 海軍が正義!!? そんなものはいくらでも塗り替えられて来た…!!!
平和を知らねーガキ共と戦争を知らねーガキ共との価値観は違う
頂点に立つものが善悪を塗り替える!! 今この場所こそ中立だ!! 正義は勝つって!!そりゃあそうだろう!!勝者だけが正義だ!!』


もう読者の正義と悪の定義、グラグラですよ。白ひげのテリトリーかって。揺れまくりだよつって。グララララつって。
エースの死をもって戦争は終わって、果たして、サカズキの行為は正義なのか、悪なのか、彼が掲げる"徹底的な正義"を考えさせられる。このあとクザンが海軍を去るところもまたニクい演出ですよね。




それから二年の時が経ち、61巻から始まる魚人島では、ホーディという『実体のない空っぽの敵』が登場します。ホーディは魚人を差別する人間を悪だと刷り込まれ、人間との共存を願うオトヒメを殺す悪役です。
が、しかし、この辺から、果たしてホーディは悪なのか?とまた考えてしまう訳です。
人間が魚人を差別しなければ、フィッシャータイガーの悲劇が無ければ、ホーディはこんなことをしなかったのではないか?
実際、フカボシ王子は『ホーディを倒してくれ』とルフィに頼むのではなく、『魚人島をゼロにしてくれ』と頼むんです。『バケモノを生み出す環境』をゼロにしてくれと。




こうやって正義と悪についてジワジワと読者に考えさせておいて、満を持して始まるのがドレスローザ編(71巻)です。
ルフィの最大の敵はドフラミンゴですが、彼は歴代の悪役でもかなり異質だと思います。
元・天竜人の生まれでとてつもなく凄惨な過去を持ち、実の弟にも裏切られた経験から、仲間のことを『家族』と呼ぶ。そして『家族』を笑う者を決して許さない。
パンクハザードで倒されたモネとヴェルゴに対しても情が深い描写がされ、そして逆にモネとヴェルゴもドフラミンゴのために命を使うことを厭わない訳です。



最初に、ワンピース初期の敵について、"完全悪"として描かれていると述べましたが、ドフラミンゴは敵にしてはあまりにも"同情の余地がありすぎる"ように描かれるんですよね。
幼い頃にあんな体験をして、父親を殺して聖地に戻ろうとしてまた殺されかけた少年が、やっと出会えたのが最高幹部である4人なわけです。彼らは『ドフィの全てを肯定する』。その代わりに王の資質を持つドフィに『夢を見せてくれ』と言う。
そんな彼らを、ドフィが『家族』と呼んだら、可笑しいかと。
血の繋がりなんて関係ない、盃を交わせば兄弟だなんて、私たちエースとルフィとサボの関係でとっくに知ってるじゃないの。



ここまで、正義と悪という物が一筋縄ではいかない事にジワジワ刷り込まれた読者は、ただ一方的にドフラミンゴを悪役として読むことができない(……少なくとも私は)んですよね。いっそドフラミンゴが最高幹部を見殺しにするような極悪非道を見せてくれれば良かったのに、彼は『家族の失敗を許す』んですよ。シュガーが気絶させられた時すらもトレーボルを許すし。
ベビー5に対してだって、ドフラミンゴは"便利な女"と言ってません。言ったのはラオGなので。


まして、77巻SBS。モネとシュガーに対しての質問で、尾田先生は二人を『大変不幸な環境からドフラミンゴに救い出された二人は』と答えています。
ドフラミンゴ、人救っとるがな。
モネとシュガーがどんな環境にあったのかは明かされていませんが、少なくとも二人を救うためにドフラミンゴは戦ったことでしょう。
彼が『人の育った環境を重視する』のも、悪はゼロから生まれないからとしか思えません。魚人島の展開が効いてきますね。環境がホーディという悪を作った。ドフラミンゴもまた、『育った環境が彼を悪たらしめた』のではないかと。彼はそれを分かってるのではないかと。
ラソンはドフラミンゴを『生まれながらの悪』と言いましたが、私からすれば自分をこんな酷い目に遭わせた父親を怨まないコラソンの方が共感出来ないんですよね(だから苦しい)。
もちろんコラさんのことは大好きですよ! めちゃくちゃ泣いたしね。でも、その優しさは誰しもが持てる物じゃないし、ドフラミンゴからすればコラさんの事件は『唯一の家族だった弟に長い年月をかけて裏切られた』訳で、尚更、『ドフラミンゴの悪を育てた環境』に、結果的に拍車をかけたと思うんです……(悲しいね……)

だからローがトレーボルに言う『お前らはドフラミンゴの操り人形に過ぎない』とか、そんなこと分かんないじゃん!言ってないじゃん!!お前に何が分かるんじゃ!ムカーッ!となってしまって、

結果、"ルフィの壁"となったドフラミンゴの敗北に、ものすごーーーーーーーーーく苦しまされました。
過去一ルフィを応援出来なくて、でもワンピースはルフィが主人公だから、やっぱりドフラミンゴは悪でしかなくて……いやでもドフラミンゴだって可哀想じゃん……色々あったじゃん……そんな酷いこと言わなくても……とグルグルしてしまって。
もっとルフィがんばえー!キュロスがんばえー!というぷいきゅあを応援する女児のような気持ちで読みたかったのですが、どうにも上手くいかず、今日まで日が空いてしまいました。




主人公推しじゃないオタク、強く生きていこうね。




今日もまた推しの敗北に涙するオタクの日記でした。書いてちょっとスッキリした。お付き合いありがとうございました。
やっとゾウ編に入れるので、またワンピースの真相を追っていこうと思います。楽しみです(尚、カタクリも大好きです)(大フラグ)